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しかし、ある程度以上の直腸がんを完全に治すためには不可欠の手術であるという意見もある。
その手術適応の選択については、今後なお検討を要する。
・自律神経温存手術。
直腸がん手術を行うと、排尿障害と男性の性機能障害がしばしばおこってくる。
普通の直腸がん手術でも排尿障害は四五パーセントにおこり、男性の性機能障害は、射精障害が八五パーセント、勃起力の低下あるいは消失が七五パーセントにも達する。
これらの機能障害はリンパ節を取り除く手術を徹底的に行えば行うほど高率におこり、かつ重症となる。
たとえば、リンパ節を広い範囲にわたって徹底的に取り除く手術を行うことにより、直腸がんに対する手術後五年生存率は向上したが、代って、患者の六七・六パーセントが排尿障害に悩まされることになり、男性の性機能はほとんど全例で障害されることになった。
これらの障害は骨盤内臓器を支配する自律神経が手術によって傷つけられることによるもので、がんを徹底的に取ると同時に、機能障害のない手術を開発することを目ざすことになる。
そこで、自律神経を温存する手術が行われるようにたった。
その結果、排尿障害はいちじるしく減っている。
男性の性機能についても、勃起障害はいちじるしく改善しているとの報告がある。
また、射精障害も二丁七パーセントで、普通の手術の八五・九パーセント、より広い範囲のリンパ節を取り除いた手術の九六・一パーセントよりもいちじるしく機能が温存されている。
手術後の生存率でも差がなく、今後、適応を選んで、機能が温存される直腸がん手術が行われるようになるであろう。
・骨盤内臓全摘術。
骨盤内臓全摘術とは、人工肛門の管理の充実とともに発達した、直腸がんに対する骨盤内臓器をすべて摘出する手術をいう。
直腸は骨盤内臓器と隣接しているために、直腸がんの周囲の臓器浸潤がしばしば認められるので、これら臓器を合併して切り取る手術が行われるようになった。
その手術後五年生存率は二九パーセントと比較的よい。
このような手術が行われるようになったのは、一九七〇年ごろからCT検査が広く用いられ、超音波検査の発達、とくに体外走査に加えて膀胱や直腸の内側から検査することによって、ほかの臓器へのがん浸潤の診断がより正確となったからである。
このような浸潤のある隣接臓器を直腸に合併して切り取るもっとも大きな手術は、骨盤内臓器を全部切り取る手術であって、直腸とともに男性では膀胱、前立腺、精嚢を取り除き、女性では膀胱、子宮、卵巣、腔が取り除かれる。
膀胱が切り取られるために、尿路変更の手術も必要となる。
一九七四年ごろに尿路変更をした後の人工排尿口の装具が改良されてから、骨盤内臓器全部を切り取る手術の意義が認められ、行われる手術数は急に増えている。
術後、日常生活、社会生活への復帰が可能になったからである。
この手術を受ける患者の八一パーセントが男性で、女性は一九パーセントに過ぎないといわれている。
これは、女性では直腸とともに腔、子宮、卵巣など後方の骨盤内臓器を全部切り取る手術が多く、膀胱を切り取ることが少ないからである。
この手術の術後の社会生活をみると、就労可能四八パーセント、日常生活可能三四パーセントで、合わせると八一パーセントに達している。
・肝転移に対する手術。
大腸がんの肝転移は根治不能になった理由の四五パーセント、がん再発の三四パーセントを占める。
この肝転移に対しても、化学療法とともに積極的に直腸がんとともに肝臓を合併して切り取ることが行われている。
肝転移が一つだけある場合、肝臓を合併して切り取った後の手術後五年生存率は三二パーセントである。
大腸がんの肝転移は胃がんに比べて治療しやすいがんであり、肝転移を上手に治療することができれば、大腸がんの予後はよくなるであろう。
胃がん、大腸がんに対する治療は外科的手術療法が主体であり、早期胃がん、早期大腸がんでは、手術だけでほぼ満足できる結果になっている。
しかし、進行胃がん、進行大腸がん、あるいはがんの宿命ともいうべき再発、転移に対して、手術療法には限界があり、最近、化学療法、免疫療法など種々の治療法をいくつか組み合せて、治療効果を最大限に発揮させようという「集学的治療」が注目され、研究されている。
このうち、手術療法についでその効果が広く認められているものは化学療法で、抗がん剤を用いて、がんを叩こうというわけである。
抗がん剤の種類は多く、おおよそ五種類に分類されるが、胃がん、大腸がんに用いられるのはこのうちの四種類である。
・アルキル化剤。
がん細胞のDNAの合成を阻み、がん細胞の増殖を抑える。
欠点として、白血球の減少、免疫機構の抑制などがある。
ナイムスティンハイドロクロライド、カルボキノン(胃がんのみ)などが用いられる。
・代謝措抗剤。
がん細胞のなかに、そのがん細胞が必要とする栄養素のかわりに、反対の作用をもつ成分を取り込ませて、がん細胞を死滅させる。
フッ化ピリミジン系のフルオロウラシル、テガフールなどが用いられる。
・抗がん性抗生物質。
DNAの合成を阻害するものと、DNAとRNAの合成を阻害するものとがある。
マイトマイシンC、塩酸ドキソルビシンなどがある。
・植物由来の抗がん剤。
がん細胞が分裂するときにつくられる紡錘体を傷つけ、がん細胞の分裂を阻止する作用がある。
急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫など造血器の腫瘍のみならず、乳がん、肺がんなどの治療にも用いられているが、胃がん、大腸がんに対して、抗がん効果はなく、用いられることはない。
・そのほかの薬剤。
シスプラチン(白金錯化合物)がある。
これは白金原子を含む無機化合物で、DNAに結合することによって、殺がん細胞効果を示す。
胃がんと大腸がんについて、これらの治療成績はいまだ不十分である。
その理由は、胃がん、大腸がんが化学療法剤に対して、感受性の低いこと、また、これに打ち勝つ有効な薬剤がえられていないことなどによる。
わが国ではフッ化ピリミジン系薬剤とマイトマイシンCの処方が広く用いられてきた。
しかし、胃がんに対する治療成績は二五パーセントを超えることはまずなかったといわれている。
最近、シスプラチンが胃がんに有効であると認められてきた。
ただ、副作用として、腎障害、白血球数の減少がみられる。
今後、この問題が解決されるならば、より有効な化学療法剤となるであろう。
そのほか、フッ化ピリミジン系薬剤と他の薬剤の併用によって思わぬ治療効果をみた報告などがあるようになり、注目される療法となりつつある。
最近、バイオケミカル-モデュレーションという考えかたもされるようになった。
これは一つの抗がん剤にはかの薬剤(モデュレーター)を併用することによって抗がん剤の作用を変え、抗がん効果を高めたり、正常細胞に対する毒性を軽減する方法である。
テガフールウラシルがその例にあげられる。
テガフールの特性と、ウラシルのバイオケミカル-モデュレーションが有機的に作用し合い、その結果、テガフールウラシルのがん選択毒性が現われるというわけである。
胃がん、大腸がんに抗がん剤が用いられたのは、わが国では一九五二千ごろからである。
一九五五年になると、胃がん切除術に併用された報歎がみられるようになった。
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